前回までは、市場価格よりも価格が下がる例として、「無道路地」、「有効宅地部分が少ない土地」、「境界が不明の土地」「高圧線下の土地」をご紹介してきました。
今回は、目に見えないけれど知らないと不動産取引に大きな影響を与えるものをご紹介します。その一つが「計画道路予定地」です。
計画道路予定地とは?
アドバイザー:「町中を歩いていると広い通り沿いなのに、古い木造家屋ばかりが並んでいる一帯がありませんか?」
相談者C子:「そうですね。場所がいいのに、どうして大きくて新しい建物が建っていないのかな?と思いました」
アドバイザー:「しかも、たまに新しめのビルがあると大きく道路から後退して建っているでしょう?そのスペースは駐車場や植え込みになったりしていて」
相談者C子:「そうそう、建物が道に対して一直線ではないところがありますね」
アドバイザー:「そういう場所がだいたい『計画道路予定地』なんですよ。計画道路は戦後の復興計画として立てられました。既存の道路を大きく拡幅する、または道路が必要な所に道路を敷設することが目的です」
計画道路の計画は長年にわたり手つかずになることも
相談者C子:「どこが計画道路かは、どう調べればいいのですか?」
アドバイザー:「市区町村のHPで都市計画図が公開されています。下の図を見てください。太い線が計画道路です。計画道路には名称「環(環状の略)、放(放射の略)、補(補助の略)」+「〇号」は名称、太字が代表幅員、細い線が現況の道路を表します」
相談者C子:「事業中のところもあれば未着手のところもありますね。いっぺんにできないのですか?」
アドバイザー:「事業として実施するには多額の予算が必要になりますから、自治体の中で事業として認可されなければいけません。ですから長年にわたり手つかずのままでいるところも多いです。有名なものでは新橋のマッカーサー道路と呼ばれた環状2号線があります。60年越しで着工し、2014年に完成した白いドラエモンのビルのところと言ったら検討がつく方もいるでしょう。虎ノ門ヒルズがある道路です」
相談者C子:「あっ、行きました。あれだけ大がかりだと相当多くの人が立ち退いたと思いますけど、さすがにただで立ち退けということはないですよね」
計画道路の立ち退きに対する補償とは
アドバイザー:「立ち退きにより補償されるものには、敷地提供をする土地の価格(公示価格をもとに算出)、同等の建物を再建築する費用、転居費用、仮住まい費用、造作物への補償費用があります」
相談者C子:「結局得するのか損するのかどちらなのでしょうか?」
アドバイザー:「古い建物でも再建築の費用は出ますから中には得する人がいるかもしれませんが、基本は補償です。例えば居住の場合は場所が変わっても極端な生活の変化は無いかもしれませんが、商売されている方は移転までの休業補償はあっても、営業補償は無く、次の場所が見つかっても同様の条件になるとは限りません。
また、どこまで収用されるかで結果が大きく異なります。道路の両側でも同じ幅で収用されるとは限りません。たとえば下の図を見てください。A地とB地、どちらが良いでしょうか?敷地と建物は同条件とします」
相談者C子:「取られるのは少ない方がいいと思いますから、左側A地でしょうか。やっぱり大半とられるよりいいでしょう?」
アドバイザー:「B地は確かに大半が収用されますが、その結果、建物、移転費用も補償の対象となり次の移転先を探して引っ越しができます。
一方A地は敷地の一部のみ収用となり、その分の補償は受けられるものの建物はそのままです。結果土地のみ面積が減ることにより、多くの場合既存不適格建築物(建ったときは合法だったが法令の改正などにより現行の法令に適合しなくなった建築物)となります。
またA地は建物の一部がかかり一部取り壊しという場合も考えられますが、その場合の補償は当然一部で、全体ではありません。建物の過半が収容されれば移転の費用が補償されますが、どこまで収容されるかは実際事業化されてみなければわかりません」
相談者C子:「なかなか難しいですね」
計画道路予定地の売買は相場より安くなるケースも
アドバイザー:「また計画道路部分は、堅固な建物は建てられません。だから数十年前のまま古い建物が残っているのです。
またマンションや建売住宅の販売の時「収容されるのだから」ということで売主の不動産会社の名義のままになっている場合も結構あります。その後不動産会社が倒産、さらに計画道路が見直しとなり、拡幅後に残地が残るため建物が接道しない状態になっているというケースもあります」
アドバイザー:「未着手の『計画決定』なら売買するのに不便はありませんが、事業化が決まった『事業決定』の場合は自治体に先に買わないか聞かないといけません(先買いの届け出)。売買について不確実な要素が多くあるので市場より安くなるのはやむを得ないということなのです。」
相談者C子:「安いからと簡単に買って儲けるという訳にはいかないのですね」
まずは都市計画図を確認してみよう
計画道路予定地には買収方式と区画整理方式というものがあり、今回は買収方式について説明しました。区間整理方式は買収方式より時間がかかり、それぞれメリットとデメリットがあります。計画道路予定地には不確定要素が多く、不動産取引に大きな影響を与える可能性があります。まずは公開されている都市計画図を見てみましょう。ただし100%計画通りになるわけではないので注意してください。
筆者:松橋 輝彦(まつはし てるひこ)